パレット太郎
現代ファンタジー都市ファンタジー
2025年12月07日
公開日
3,482字
連載中
佛に仕えるはずの僧――だが彼は、人を殺した。
舞台は山深き禍津の寺。
「倶会一処會」と称して行われる年に一度の乱れ宴。
僧たちは酒をあおり、女を抱き、肉を貪る。
――“戒”とは、どこへ消えたのか。
そしてその日、炎と血に染まった本堂の中、
破戒僧たちはひとり残らず殺され、
百を超える死体の上に、琵琶を抱えた殺生坊が立っていた。
その指が奏でるのは、怒りと供養と、ほんの僅かな快楽の音。
彼は羅城門を潜り、冥界の合理化されたシステム地獄――
**RPaz(Reincarnation Process & Assessment Zone)**へ送られる。
そこで彼を待つのは、シャトルバスが走る三途の川、
マイナス273℃の受付フロア、魂査定AI、
そして、楽しげに案内する派遣の受付嬢。
「8215-B番……あ、殺生僧ですね〜」
殺生坊は、業火体験シミュレーターに入り、
己の殺生に「自己犠牲」と「壮快感」という、矛盾する動機を突きつけられる。
やがて彼は、冥界の最深部で閻魔と対峙する。
「貴様の怒りは、正義ではなく──嫉妬だ」
仏に仕えながら欲を抑え続けた自分が、
それを露わにする他者に抱いた、妬みと断罪。
そして閻魔は語る。
「お前は、待ち人だ。生まれそこねた弟の命を、背負っている」
記憶が蘇る。
女手一つで育ててくれた母。
病で痩せ、誰にも頼らず、それでも笑っていたあの背中。
神も仏も、何もしてくれなかった。
だから自分が“仏”になるしかなかったのだ。
怒りでも、快感でもない。
それは、哀しみの置き場が無かっただけだった。
そして今、閻魔は裁かない。
“終わらせることすら許さない”という形で、
彼に「生きろ」と言い渡す。
琵琶の音が響く。
赦しではない。救いでもない。
だがそれでも、“誰かの極楽”を願えるようになった殺生坊は、
ついに歩き出す。
――地獄の向こうの、生という名の地獄へ。