一夜限りの関係のあと、ひとりで子どもを育てて四年半――突然現れた父親は、資産千億の御曹司、しかもワーウルフだった!
千霊ちか
恋愛現代恋愛
2025年12月26日
公開日
3.1万字
連載中
藤原雪奈は、夢にも思わなかった。
五年前、酔った勢いで一夜を共にしたあの「大きな犬」の正体が、狼族の若き当主だったなんて。
ましてや、その一夜で――彼の子を身ごもっていたなど。
叔母を亡くし、親戚からは冷たい視線を向けられ、彼女はたった一人、幼い子どもを抱えて東京の底辺で必死に生きてきた。
二十歳の少女は、節約のために三日間パンだけで飢えをしのぎ、出産では難産となり、手術台の上で命を落としかけた。
――この人生は、きっとここまで。
彼女はそう思っていた。
だが、子どもが四歳半になったある日。突然の高熱が下がらない。
そこへ現れたのは、あの冷たい男だった。
「その子は半狼族だ。月の泉の水が必要になる。――俺と来い」
月城凛人。
狼族の若き当主、月城財団の若き社長。
資産は千億とも言われる男。
人間に強い偏見を抱く彼は、子どもの存在を理由に、しぶしぶ雪奈を月城邸に住まわせる。
従姉は嘲笑った。「玉の輿にでも乗ったつもり?どうせ人間の女なんて、彼は眼中にないわ」
――三日後。その従姉の一家は破産し、父親は投獄された。
かつての追求者は彼女を「尻軽な女」だと罵った。
その日のうちに会社を解雇され、スキャンダルが新聞の一面を飾った。
取引先の息子が、公園で彼女に怪我を負わせた。一週間後、その一族の財団は月城に完全買収された。
人々は囁く。――なぜ月城凛人は、ただの人間の女にここまで優しいのか。
そして満月の夜。雪の上に片膝をついた彼が、静かに告げた。
「藤原雪奈。俺と結婚しろ。狼族は一生にただ一人の伴侶しか持たない。――お前こそが、俺が選んだその相手だ」