契約夫婦517日目~会社では犬猿の仲なのに、家では彼が魚の骨を取ってくれる~
雪福もちこ
恋愛結婚生活
2026年03月05日
公開日
3.8万字
連載中
宮野心晴には、人に言えない秘密がある——
会社で会議のたびに彼女の企画を却下するあの取引先の代表・冬夜凛久と、実は夫婦だということ。
一年半前、少し酔った勢いで、彼女は何気なく聞いた。
「一緒に役所に婚姻届、出してみる?」
彼は三秒だけ黙り、こう聞いた。
「明日の朝、何時に開く?」
そして本当に行った。
ただの契約。互いに踏み込まない。誰も本気じゃなかった。
——あの夜までは。
出張から予定より早く戻ってきた彼。
そのとき彼女は家で一人、「ストレス発散」の最中だった。
玄関のドアが開き、彼は靴を履き替え、リビングへ入り、そして足を止める。
目が合う。
プロジェクターはまだ点いたまま。
三秒の沈黙。それから彼は、短く口笛を吹いた。
その後も、会社では彼女は彼に噛みつき、彼は彼女の案を容赦なく却下する。
同僚たちの目には、生まれつきの犬猿の仲。
だが誰も知らない。
会議が終わったあと、二人がマンションの駐車場で落ち合い、同じエレベーターに乗り、同じ扉の前に立つことを。
誰も知らない。
彼女が熱を出せば「通りがかっただけ」と言って現れること。
人前で責められれば、無言で隣に立つこと。
父親に「どうしてあんな人がお前を選んだのか」と言われたとき、静かにこう返したこと。
「彼女は、ちゃんとやっている。」
——問題は。
契約夫婦って、こんなものだった?
第1話 あの夜、彼女はロックの不具合に気づいていなかった