叔父に売られ見合いに行かされた日、財閥の居酒屋に住み込みになった――そしてこの通り全部が彼のものだと知った
晴橙
恋愛現代恋愛
2026年03月09日
公開日
2.1万字
連載中
二十歳の年、結衣はすべてを失った。
両親は亡くなり、古い実家は空き家になった。堂叔は「面倒を見る」という名目で、彼女のスマホも、外出も、予定もすべて管理するようになり――最後には、きれいに着飾らせて見合いの席へ送り込んだ。
向かいに座った男は、開口一番こう言った。「うちに嫁いだら、もう学校には行かなくていい」
結衣はトイレに行くふりをして席を立ち、壁づたいに走った。薄暗い廊下で、勢いよく誰かの胸にぶつかる。
「……助けてくれませんか」
かすれた声で、目は赤く潤んでいた。
その人は何も聞かなかった。追ってきた男たちの前にさりげなく立ち、彼女のために道をあけてくれた。
それから結衣は、海辺の小さな町へ逃げた。そこで入ったのが、「岩城屋」という居酒屋だった。
そして、同じ目に出会う。
彼の名は、岩城悠徹。
居酒屋の店主。
口数は少なく、口調もぶっきらぼう。それでも彼は、彼女が少しぬるめの温かい飲み物を好むことを知っていた。
「もう一杯だけ」と彼女が言ったあのスープのことも覚えていた。
熱を出して倒れた夜には、ベッドのそばの椅子に座り、何も言わずにずっと付き添っていた。
結衣は、自分はただ居候させてもらっているだけだと思っていた。
けれど――
隣家の奥さんが包丁を手に庭へ怒鳴り込んできたとき。弁護士が書類を読み上げたとき。
彼女はようやく知る。
彼はずっと彼女の後ろに立っていたのだ。料亭で彼女が助けを求めた、あの瞬間から。
最初から――
手を離すつもりなど、なかった。
第1話 嫁いだなら学校はもういい、女の子なんだから