誘拐された私より初恋を選んだ夫と離婚しました――今さら跪いてももう遅い
パペット
恋愛現代恋愛
2026年03月13日
公開日
8,792字
連載中
結婚して七年、梨那はずっと思っていた。夫・日高陽介は、ただ生まれつき感情の薄い人なのだと。
けれどある日――彼が福元清花のために遊園地を貸し切り、盛大な花火を打ち上げているのを知る。
その瞬間、ようやく気づいた。彼の優しさは、最初から一度も自分に向けられたことなどなかったのだと。
誘拐されたあの夜。血だらけの体で必死に逃げ出し、震える手で陽介に電話をかけた。
けれど返ってきたのは、冷たい一言だけだった。
「梨那、今忙しいんだ」
数日後、病院で偶然見かけたのは、仲睦まじく寄り添う二人の姿。
そして娘は、母親であるはずの梨那を強く突き飛ばして叫んだ。
「どうして死ななかったの?大っ嫌い!」
――すべてが崩れ落ちた。
やがて梨那は知ることになる。
誘拐は清花が仕組んだものだったこと。
そして彼女の患った“心臓病”でさえ、すべて嘘だったことを。
それでも、失った時間は戻らない。
たとえ陽介は彼女の前に跪き、涙ながらに懇願しても。
「もう一度だけ、やり直すチャンスをくれ」
娘も泣きながら謝り、母の元へ戻りたいと縋りついても。
――もう遅かった。
そんな中、どん底に落ちた梨那の手を、静かに掬い上げた人がいた。
それは、昔からずっと彼女を想い続けていた隣家のお兄ちゃん、陸川悠真。
傷だらけの彼女を抱き寄せながら、彼は言う。
「今度は俺が、君を守る」
誰かに心から想われ、大切にされるとはどういうことなのか。梨那は、ようやく知る。
――忘れられない想いには、いつか必ず応えが返ってくるのだから。