夫が初めて私の好きな食べ物を聞いたのは、結婚三年目のことだった
みょん
恋愛結婚生活
2026年03月30日
公開日
3.1万字
連載中
結婚三年目。
夫・伊沢凌は今日も朝食を食べながらスマホを見ていた。
七緒が毎朝五時五十分に起きることも、彼の体調に合わせて出汁を引くことも、傘を鞄に忍ばせることも、三年分のプレゼントが物置に眠っていることも——何も、知らない。
契約まで、あと二十七日。
ある夜、彼の初恋が帰ってきた。
凌は七緒が三年間一度も見せたことのない表情で、その人を見た。
七緒はその夜、引き出しの奥の契約書を取り出して、指先でそっと自分のサインをなぞった。
翌朝、彼女は離婚協議書を仕事の書類に混ぜて差し出した。
凌はスマホを見ながら、三秒でサインした。
泣かなかった。
責めなかった。
叫ばなかった。
三年間、誰にも言えなかった全部を、ただ静かに畳んで、鞄に詰めた。
やがて彼が気づいた時——電話は87回、繋がらなかった。
彼女はもう、別の空の下で、自分だけの線を引いていた。