「正しい妻」から「間違った宝物」へ――エリート元夫に切り捨てられた私、財閥御曹司のインスピレーション源になる
死ぬな頼む
恋愛結婚生活
2026年04月15日
公開日
5.2万字
連載中
浅井椿奈の結婚は、酔った勢いの「責任」から始まった。
五年のあいだ、彼女は東京のエリート医学教授・高橋悠真の「正しいリスト」に載る一項目に過ぎなかった。――品のいい妻、責任ある母、静かな背景。
絵筆は埃をかぶり、好きなことは後回し。
リビングで倒れても、実の息子でさえ彼女を避けて通り、「めんどくさい」と呟きながらゲームへ向かう。
三十歳の誕生日。
鏡に映る、空っぽの目をした女を見つめて――椿奈はようやく気づいた。
自分がこの整いすぎた家庭の中で、いつか取り替えられる“古い部品”になっていたことに。
彼女は離婚届を置き、京都へ逃げた。
古都の雨音と苔の匂いの中で、もう一度、呼吸の仕方を思い出そうとする。
だが――彼女はまだ知らない。
かつて彼女のために『月光』を奏でたあの少年、黒沢律也が、ずっと彼女を見失っていなかったことを。
そして、前夫が学術的地位と親権を盾に彼女を追い詰めたとき。
すでに財閥の後継者となっていたその男は、公衆の面前で彼女の手を取り、挑発する貴婦人に淡々と言い放つ。
「黒沢家のルールは一つだ。俺が選んだものが、唯一の宝だ」
やがて椿奈は、千年の歴史を持つ神社で白無垢を纏う。
三三九度の盃を交わすその瞬間、律也は彼女の耳元で静かに囁いた。
「心も体も、すべての権利は永久譲渡済みだ。――受け取ってくれ、俺の妻」