京都に転生して和菓子の女王になった私に、元夫が復縁を跪いて願ってきた
余白の音
恋愛現代恋愛
2026年05月07日
公開日
3.4万字
連載中
春野棠の結婚は、まるで精巧で壊れやすいガラスのようだった。
宮外妊娠で破裂し、救急搬送された彼女は、手術同意書の“家族”欄に震える手で自分の名前を記入した。
その間、夫・藤堂誠は高級料亭で、幼なじみの茶道家令嬢・水原夏希の展覧会成功を祝って乾杯していた。
彼が持ち帰ったのは夏希からのスカーフ。
ポケットの中には、夏希と一緒に出かけたチケットの半券が忍ばされていた。
彼は夏希の誕生日やキャリアは覚えているが、棠の父親の命日は忘れ、
高熱で救急車を呼んだ雨夜に、テレビの前で「家庭の責任」などと口走る始末だった。
棠がついに署名済みの離婚協議書と婚約指輪、そして「どうぞお幸せに」と一言残し、静かに去ったとき、誠はこれをただの短気な不満だと思っていた。
しかし、半分空いたクローゼットと変更された戸籍を見た時、ようやく何かを失ったことに気づく。
その頃、京都の老舗「満月堂」の前。
棠は灰だらけになりながら、父の遺稿を救おうとしていた。
そこへ隣の毒舌建築デザイナー・神崎蓮が火の中に飛び込み、彼女を引き出し、低く叫ぶ。
「命より大事なものがどこにある!」
叫び終えると、彼は慎重に棠の顔の煤を拭った。
誠は嵐山の竹林で長跪き、懺悔する。
棠は平静に言い放つ。
「あなたが愛していたのは『藤堂棠』という便利な機能だけ。彼女はあの手術室で死んだ。今の私は、春野棠です」
その後、藤堂誠の会社は彼の落ち込みにより挫折し、夏希の茶道も波紋に包まれる。
一方、修復された「満月堂」の庭で、蓮は中秋の満月を背に棠に語りかける。
「今の君の姿は、ここ、この景色、そして僕の視線にもぴったりだ」
棠は顔を上げ、微笑む。
「景色よりも美しいのは、一緒に景色を見られる人」