付箋みたいな彼女が壊れた後、白月光も天才も一緒に墜ちていった
星 ひとつまみ
恋愛現代恋愛
2026年05月07日
公開日
3.5万字
連載中
桐谷夏実は、久我涼介の“付箋”として七年間生きてきた。
彼の好みをすべて覚え、シャツを一枚一枚丁寧にアイロンがけし、彼が“白月光”――神野百合のギャラリー照明トラブルのため雨の中を駆け出した夜も、一人で昇進祝いのフレンチを食べ終えた。
彼女は、婚姻届こそが結末だと信じていた。
しかし提出当日、夏実は区役所の階段でその紙を引き裂く。
その頃、涼介は銀座の料亭で、帰国した百合のために料理を取り分けていた。その写真はSNSに鮮やかに切り取られていた。
深夜、急性胃腸炎で一人救急外来へ向かった時、電話は彼の隣にいた百合に切られた。
百合の誕生日パーティーを心を込めて準備しても、返ってきたのは“報酬”と記された振込だけ。
雨の中、タクシーを待ち続ける彼女を置き去りにし、彼は和服姿の百合を車で送り届ける。
その瞬間、夏実は悟った。
自分は恋人ではない。ただの“便利な機能”だったのだと。
だから彼女は、七年間貯め続けた硬貨入りの招き猫を叩き割り、一度も着けられることのなかった結婚指輪を置き、日本のSIMカードを引き抜いて折った。
そして、跡形もなく姿を消した。
やがて、涼介は百合との共同プロジェクトで表彰台に立つ。
しかしその頃、夏実はすでにライバル企業の重要な協力者となっていた。
そして、いつも関西弁で明るく笑うゲーム会社社長・早乙女郁斗が、プログラムの画面いっぱいに「Marry Me?」と表示しながら、彼女へ指輪を差し出す。
――その時になって初めて。
涼介は、国際電話越しに崩れ落ちながら、自分が積み重ねてきた嘘が、すべて砕け散る音を聞くのだった。