高所恐怖症の女性社長とエース機長――今日も廃線寸前のローカル路線で、世界を救っています
タロ芋
恋愛現代恋愛
2026年05月26日
公開日
3.5万字
連載中
ライバル企業が「公私混同だ」と彼女への悪質な噂を広めたとき。
夏目匠は大勢の視線をものともせず人混みをかき分け、彼女の前に立った。そして短くこう言った。
「風が出てきた。戻るぞ」
本社からの路線廃止通達が重くのしかかったとき。
彼は町民総会の開催を働きかけ、彼女の隣に立ち、集まった人々へ真っ直ぐ告げた。
「彼女の計画は、この町を一夜で豊かにはできないかもしれない。だが……子どもたちがこれからもここを“故郷”と呼びたいと思える未来は、守れるはずだ」
百年に一度とも言われる猛吹雪が、町の命綱を断ち切った日。
彼は自ら志願し、航空機を“死の空域”へ向かわせた。
無線の共通回線に響いた、かすれながらも確かな声。
その言葉は、ただ一人のために向けられていた。
「由紀――俺の声についてこい」
「近寄りがたくて冷たい機長」から、「空を守る守護者」へ。
久我由紀は思ってもみなかった。
仕事も人生も、崖っぷちに追い込まれた自分を最後に引き戻してくれたのが――最初は誰よりも自分を突き放していた、この男だったなんて。
そして彼が守っていたのは、路線だけじゃない。
彼女の空、そのすべてだった。