乾為天女
恋愛現代恋愛
2026年05月28日
公開日
2.6万字
連載中
外食会社でメニュー開発補助として働いていた奈穂は、自分が考えた甘辛だれのレシピを奪われ、原価計算ミスの責任まで押しつけられる。婚約直前だった恋人の湧輔にも見捨てられ、職場も恋も居場所も一度に失った帰り道、霧に包まれた教会前で倒れている美しい男・和馬を見つける。
奈穂が彼を運び込んだのは、亡き祖母が営んでいた小さな総菜店「鉛筆食堂」だった。財布もスマートフォンも持たない和馬は、焦げたコロッケにかけた奈穂のたれを一口食べただけで味の弱点を言い当てる。腹を立てながらも、奈穂は彼の舌と手際に助けられ、安い食材で笑って食べられるB級グルメの店を昼だけ開くことにする。
ところが、奈穂の味を奪った外食会社グラスローズ・ダイニングは、霧見坂商店街の個人店を安値で買収し、看板料理だけを吸い上げようとしていた。さらに和馬の父方の姓がその会社の創業家につながると知り、奈穂の信頼は砕ける。
それでも奈穂は、怒りを料理だけにぶつけるのではなく、手書きのレシピ、仕入れ帳、鉛筆台帳、証言を集めて立ち上がる。さゆり、聖彩、壱護、昂士、そして過去を隠していた和馬とともに、奪われた味と商店街の未来を取り戻していく。
恋に救われるのではなく、誰と働き、誰のために作り、誰を好きでいるかを奈穂自身が選び直す物語。霧の教会前で拾った出会いは、やがて同じ厨房に並ぶ毎日へ変わっていく。
登場人物一覧
奈穂
外食会社でメニュー開発補助として働いていた三十二歳。安い食材を組み合わせ、人が少し前を向ける料理を作るのが得意。レシピを奪われた後、祖母の総菜店「鉛筆食堂」を再び開き、商店街の味と自分の人生を取り戻していく。
和馬
霧の教会前で奈穂に助けられた男。料理の勘が鋭く、厨房では黙って手が動く。グラスローズ創業家と関わりを持つ過去を隠していたため奈穂を傷つけるが、逃げずに謝り、料理人として彼女の横に立とうとする。
湧輔
奈穂の婚約直前の交際相手で、グラスローズ・ダイニングの広報担当。出世のために奈穂を切り捨てるが、後半では自分のしたことを証言し、奈穂のレシピ流用を明るみに出す。
絵里那
グラスローズ・ダイニングの社内規律担当。規則や体裁を盾に奈穂を追い詰める。買収や衛生検査でも奈穂たちを揺さぶるが、終盤で保身のために規則を使っていたことが崩れていく。