「ただの友達だ」と言った彼は、雨の夜に私にキスしたくせに、別の女と婚約した
あさかわ ゆきな
恋愛現代恋愛
2026年05月29日
公開日
3.3万字
連載中
遠山幸奈は、自分と龍崎望は愛し合っているのだと思っていた。
ただ、家族に認められるまで少し時間が必要なだけだと。
――けれど。
卒業前夜の飲み会で、彼は別の女の子を引き寄せ、笑いながら言った。
「幸奈? ただの友達だよ。うちの家が求めるタイプじゃない」
さらに、クローゼットの中で偶然聞いてしまう。
彼の母親の声を。
「ああいう庶民の子は、卒業まで遊ぶにはちょうどいいのよ」
そして決定的だったのは――
龍崎家からの一本の電話で、彼女が必死に勝ち取ったイタリア留学資格が簡単に消されたこと。
彼は眉をひそめるだけだった。
「そんな遠く行って、菓子作り学んで何になる?」
東京の雨は、いつも冷たい。
幸奈は涙を拭き、すべての連絡先を削除して、片道切符を買った。
その後――
龍崎望は狂ったように彼女を探し始める。
婚約披露宴では、彼女のために空けていた席を見つめたまま動けず、
雨の夜になるたび、最後に向けられたあの瞳を思い出していた。
さらに時が流れ。
彼がフィレンツェで見つけた幸奈は、
流暢なフランス語で笑い、彼女のデザインしたスイーツはミラノで賞を獲っていた。
彼女は穏やかに微笑む。
だが、その笑みはどこまでも遠い。
「龍崎さん、お久しぶりです」
彼は目を赤くしながら問う。
「……もう一度、やり直せないか?」
幸奈はアルノ川の流れを指差した。
「見てください。川は、一度流れたら二度と戻らないんです」
――それでも。
後日、彼は料亭の未来すべてと、新しい共同プロジェクトの契約書を抱えて、彼女の前に立つ。
まるで壊れ物に触れるように、慎重な声で尋ねた。
「じゃあ……恋人じゃなくていい。
せめて、パートナーとしてなら……だめですか?」