RikoRiko
恋愛現代恋愛
2026年05月29日
公開日
3.6万字
連載中
佐藤晴は、一度死んだ。
死ぬ直前に聞こえたのは、夫・鈴木徹が医師へ冷静に命じる声だった。
「生命維持は続けてくれ。心臓は彼女に移植する」
その“彼女”とは――彼の幼なじみ。
そして晴は、契約結婚に署名したあの日へと回帰する。
目の前にいるのは、未来で自分を犠牲にした、冷たく美しい男。
思い出すのは、これからの三年間。
慈善パーティーで、幼なじみから「自分を持たない女」と嘲笑されても、彼は笑って見過ごしたこと。
母が重病で入院した夜、彼は“妹”と音楽会へ行っていたこと。
事故で脳震盪を起こし、一人病院で横たわる彼女を放置しながら、軽井沢の夜景写真に「君がいるだけで晴れの日だ」と投稿していたこと。
だから今度の晴は、静かに契約書へサインした。
――そして、日記を書き始める。
冷遇された日。
露骨な差別。
「病弱な老婆」や「厄介な居座り女」と彼が吐き捨てた録音。
すべてを、淡々と記録した。
やがて、その日記と証拠は“偶然”ネットへ流出する。
世論は爆発し、鈴木徹は初めて気づく。
自分が閉じ込めていた静かな籠の鳥は、
とっくに彼自身を閉じ込める檻を完成させていたのだと。
そして――
いつも彼女が傷ついた時に現れていた、エリート弁護士の先輩。
すべてが終わった後、一面の向日葵畑の中で、彼は晴に一枚の手書き書類を差し出した。
それは、終身有効の――“結婚申請書”だった。
第1話 私が死んだ後、彼は私の心臓で白月光を救った