新年の一族会で、婚約者の家宝の指輪は妹の指にはまっていた
薄荷もちもち
恋愛現代恋愛
2026年06月03日
公開日
3.2万字
連載中
綾は三年かけて知った。
物分かりの良さでは尊重は得られないことを。
譲り続けるほど、人は当たり前のように軽んじるのだと。
高島家の新年会で起きた婚約指輪の騒動。
そして何度も“妹”のために身を引かされた日々。
綾は何も言わず、静かにすべてを整理すると、東京から姿を消した。
ようやく高島真が事の重大さに気づき、京都まで追いかけてきた頃には、もう遅かった。
彼を待っていたのは、綾の穏やかな一言。
「どうぞお引き取りください」
そして、京友禅の名門「藤染」の若き当主・藤原雅人による、礼節を保ちながらも一切の容赦がない警告だった。
「これ以上、彼女を困らせないでいただけますか」
その後、綾が手掛けた合同デザイン展は大成功を収める。
憔悴した高島真が会場を訪れた時、そこにいたのは、かつての控えめな彼女ではなかった。
大勢の来場者に囲まれ、自信に満ちた笑顔で輝く綾。
そしてその隣には、風に乱れた髪を自然な仕草で整える藤原雅人の姿。
二人の距離感は、誰の目にも特別だった。
立ち尽くす真の耳に、周囲の囁きが届く。
「本当にお似合いね」
「まるで最初から運命の二人みたい」
その言葉に背を押されるように、彼は静かにその場を去った。
――さらに時が流れ。
藤の花が咲き誇る庭園で、藤原雅人は自ら染め、自ら編み上げた指輪を綾へ差し出した。
「綾さん」
いつも冷静な彼らしくない、少しだけ緊張した声。
「これから先の人生を、私と共に歩んでいただけませんか」
綾は指輪を見つめ、それから彼の瞳を見上げる。
長い遠回りの末に辿り着いた幸せを確かめるように。
そして、そっと微笑んだ。