利き手を奪われた私が死を偽装した結果、元婚約者は破滅し、私は家伝の酒を国宝級へと育て上げた
プリン犬
恋愛現代恋愛
2026年06月03日
公開日
3.6万字
連載中
花山院椿は知っていた。
九条朔也との結婚は、家族を救うための契約に過ぎないことを。
彼女は百年続く家伝の白無垢を纏い、優雅で従順な婚約者を演じる準備をしていた。
しかし、老舗の屋敷の階段から落ちた瞬間――
痛みに顔を歪め、意識が朦朧とする中で、耳に入ったのは扉の向こうの未婚夫と家庭医の冷徹な会話だった。
「手の神経損傷、永久的だ」
「子どもは“事故”として流す必要がある」
目を覚ますと、彼女は知らぬ間に妊娠していた子を失い、右手は永久に損傷と診断され、家伝の三味線を二度と弾けなくなっていた。
それでも、未婚夫は優しく彼女の手を握り、囁いた。
「怖がらないで。俺が面倒を見る」
だが振り返ると、彼は彼女の精神を乱す薬を、サプリメントに混ぜ込んでいた。
茶会の場では、医師が彼女を罠へと押し込み、彼は公衆の前で失態を叱責し、家族の名誉を傷つけた。
それでもある日――
九条朔也は気づく。
彼が奪おうとしたブランド買収の重要な証拠が忽然と消えていたことを。
そして、かつて“精神崩壊”したはずの婚約者は、
彼が決して見つけられない方法で、彼が最も大切にしていたものすべてを、一寸ずつ粉々にしていたのだった。