「君の絵は純粋じゃない」と捨てられた私、下積み画工から始めたら天才建築家に溺愛されました
こはるびより
恋愛現代恋愛
2026年06月03日
公開日
3.9万字
連載中
京都の古びた町家で目を覚ます月見里雅。彼女の生活は、雑貨店「豆吉」で決められた見本通りに豆皿を描き、好きでもない零細な仕事をこなして生活費を稼ぐことだけだった。しかし、店に静かに訪れる、どこか近寄りがたい雰囲気を纏う建築家・神原律に出会ったことで、日常は少しずつ変わる。彼は毎回、雅が描いた豆皿を一つか二つ購入していくのだが、それには店主が「不合格」とした欠点のあるものも含まれていた。
律は言った。「君の筆には、型では縛れない呼吸のリズムがある」と。噂に傷つき逃げ出そうとした雅を律は強引に支え、「個展を開こう。君の残した痕跡すべてを見せればいい」と提案した。夜遅くまで展示準備を手伝い、熱いお茶を差し出して、「僕はここにいる。君の最初の観客であり、最後の応援者だ」と言った。
二人の関係は告白から始まったわけではない。ある雨の夜、律が食事を差し出したことがきっかけだった。「一人で食べると、つい作りすぎる」と彼は笑った。それ以来、一緒に食事を分け合うのが日常となり、雅は灯りの下で「亀屋」の挿絵を描き、律は隣で建築模型を眺める。東京出張の際には、人里離れた美術館の画集を持ち帰り、「君が気に入ると思った」と言って渡してくれるのだった。
半年間、律が東京と京都を頻繁に往復することになったとき、彼女は尋ねられた。「どうしたい?」 雅は答える。「私の根はここにある」 すると律は笑みを浮かべ、「じゃあ、僕が新幹線通勤族になるよ。箸だけは一本残しておいて」と言った。
今、月見里雅は「豆吉」に立ち、スマートフォンで送られてきた写真を見つめている。建築模型の片隅に置かれた歪な豆皿の落書き。窓の外には、先斗町を優しく染める夕陽が差している。こうして、彼女は自らの手で勝ち取った、平凡だけれど何よりも大切な日常を抱きしめていた。