麦狼
恋愛現代恋愛
2026年06月03日
公開日
5,524字
連載中
LGBT(レッツ・ガール・ボーイ・トラブル)
「ノーカンにしておく」——そう決めたのに、なぜ忘れられないんだろう。
小説家志望の高校生・桐島亮には、誰にも言えない秘密がある。
原稿が詰まるたびに、女装して渋谷を歩く。誰も自分を知らない場所で、誰でもない自分になると、不思議と言葉が湧いてくるから。
ある日、いつものように街を歩いていた亮は、見知らぬ男の子に突然キスをされた。触れるだけの一瞬。「衝動的だった」という言葉を残して、相手は人込みに消えた。
翌朝、そいつが転入生として隣の席に座った。
宮本梨央。黒髪、丸眼鏡、琥珀色の瞳。昨日と同じ目が、まっすぐにこちらを見ていた。
お互いの秘密を握り合ったまま、二人は宣言する。
「ノーカンにしておく」
——だが、それだけでは終わらなかった。
亮には、子供の頃から繰り返し見る夢があった。白いクロスのテーブル、石畳の段差で転んだ記憶、差し伸べられた小さな手、そして琥珀色の瞳。人生で一番古いその記憶の中に、ずっと誰かがいた。
そして今、その誰かが隣に座っている。
さらに追い打ちをかけるように、亮の父・あきらと、梨央の母・ちひろが再婚すると言い出した。長年、小説家と担当編集者として寄り添ってきた二人が、ついに家族になろうとしている。
男から女へ、女から男へ——それぞれの道を歩んできた二人の親が選んだ、新しい幸せ。
義理の兄妹になるその前に、亮と梨央には、まだ思い出せていない記憶があった。
初めてのキスは、いったい誰のものだったのか。
名前が入れ替わった二人の、すれ違いと秘密と、ちょっとだけ不器用な恋の話。