離婚後、私は世界的ジュエリーデザイナー“AOI”になった――元夫と愛人は狂っていった
Kyarameru Neko
恋愛現代恋愛
2026年06月19日
公開日
2.1万字
連載中
大晦日、篠原葵の夫が妊娠中の愛人を連れて帰宅し、離婚届を彼女の前に突き出した夜。
彼女は一切の抵抗も見せず、静かに署名した。財産分与もすべて放棄した。
誰もが彼女を「捨てられた哀れな妻」だと思っていた。
何も持たず、子どもさえも手放した女だと。
しかし、誰も知らなかった。
彼女にはもう一つの名前があった。
――AOI。
三年前、パリ・ビエンナーレで世界を震わせた天才ジュエリーデザイナー。
受賞後、忽然と姿を消した“幻の作家”。
元夫の新しい恋人が「盗作だ」と彼女を公然と非難したその時。
葵はスマートフォンを取り出し、三年前のフランス人デザイナーとのやり取りを見せた。
それは、技術を教えを請う側だったという明確な証拠だった。
会場の空気は一変した。侮蔑は驚嘆へと変わり、視線は彼女に集まる。
そして外側に立っていた元夫は、その光の中心にいる彼女を見つめながら、初めて後悔の表情を浮かべた。
だが、それはまだ序章に過ぎなかった。
やがて現れた榊原透という男が、彼女の前に立ちはだかるすべての悪意を遮り、
「彼女の価値は出自ではなく才能にある」と世界に宣言する。
そしてある夜、彼はAOIの名前を刻んだ指輪を彼女の指にそっとはめた。
――あなたは、ちゃんと大切にされるべき人だ、と。
それから後日。
葵は自らデザインした男性用リングを取り出し、その内側に彼のイニシャル“T.K.”を刻んで彼の前に差し出した。
「もう、待たなくていい。……私も、あなたと生きたい」
二つの指輪が窓辺に並ぶ。
AOIとT.K.。
東京タワーの光がガラス越しに差し込み、静かに二人の未来を照らしていた。