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婚約破棄で公開処刑された私を、財閥社長だけが十年間密かに想い続けていた
婚約破棄で公開処刑された私を、財閥社長だけが十年間密かに想い続けていた
あさかわ ゆきな
恋愛現代恋愛
2026年06月19日
公開日
2.1万字
連載中
彼女が婚約者に人前で突き飛ばされた瞬間、彼女は泣かなかった。 ただ隅で小さくうずくまり、「……本当に、役に立たない」と呟いただけだった。 それは、養母の家で十年以上生きてきた彼女が身につけた、唯一の“本能”だった。 ――三日後。 彼女は交通事故に遭い、すべての記憶を失った。 目を覚ますと、病室の隣には見知らぬ男が座っていた。 彼は静かに告げる。 「俺は、君の両親に指名された後見人だ」 彼女はその言葉を信じた。 なぜなら、その他に彼女を訪ねる人間は誰一人いなかったからだ。 彼女は知らなかった。 この男が、十代の頃からずっと彼女を一方的に想い続けていたことを。 そして今回こそ、“正式に彼女のそばにいられる理由”を得たことを。 彼は、彼女の世話を完璧にこなし、夜中に熱を測り、薬を飲ませ、ベッドの傍を離れない。 それは優しさというより、長い時間を耐え続けた執着だった。 やがて養母が「育てた恩」を盾に金を要求しに来た時、 彼は静かに証拠書類を机に並べた。 ――横領、遺産の私的流用、偽造署名。 「今夜、金の話をするならこの資料から始めましょう」 その一言で、養母は完全に追い詰められた。 前婚約者は再起のために政略結婚を選び、しかし結婚相手にすべてを食い尽くされ会社は崩壊。 債権者会議で、誰も彼を助けなかった。 かつて彼女を見下していた者たちは、互いに責任をなすりつけ合い、全員が沈んだ。 そして、彼女を“騙していた”はずのその男は、最後まで愛を口にしなかった。 ただ一度だけ、自ら手放すには大きすぎる重要プロジェクトを諦めて、彼女の前に立った。 「君が俺を理解したうえで選んだ答えなら、それでいい」 それは告白ではなかった。 けれど、彼にとってはそれ以上のすべてだった。

第5話 古い記憶と新たな嘘

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