焼死寸前に助けを求めた夫は、“肝臓提供者”だと信じている後輩に付き添っていた——その肝臓を渡したのは私だった
雨間
恋愛結婚生活
2026年06月25日
公開日
5.9万字
完結済
結婚して五年、中村千鹤の生活は三つだけだった。
彼が帰宅するのを待つこと、病気の義父の世話をすること、そして一度も口にしたことのない秘密を守ること。
——彼女は自分の肝臓の六割を彼に提供していた。
だが彼はそれを、“見知らぬ誰かの善意”だと思っていた。
火災の夜。
彼女は23階のバルコニーに閉じ込められ、夫に電話をかけた。
しかし最後に聞こえたのは「自分で何とかしろ」という一言だけだった。
その背後では、後輩の女が彼を入浴に誘っていた。
彼女の死から七日後。
彼はすでに離婚申請書を作成していた。理由は「配偶者としての義務不履行」。
——だが、彼女は“消えなかった”。
縁結び神社の巫女は告げる。
「縁結びの帳が開かれました」と。
それは、生前に彼女が積み重ねたすべての献身を“数値化”し、
一族会議の場で公開するための仕組みだった。
彼女はようやく、彼が一度も見ようとしなかったものを、全員の前に晒す機会を得る。