名門の夫は「私だけを愛している」と言いながら、毎晩別の女と寝ている
SSS
恋愛結婚生活
2026年06月26日
公開日
2.1万字
連載中
早川綾が久世景臣と結婚した年、東京湾のライトアップショーは彼女のために灯された。
誰もが彼女を「日本で最も幸運な女性」だと言った。
だが誰も知らない。
彼女は港区の高層マンションの窓際に座り、
夫のシャツに残る香水の匂いを数えるようにして生きていた。
彼は接待で深夜に帰宅し、彼女は玄関でその時間を待った。
別の女の口紅をつけて帰ってきても、彼女は何も言わなかった。
ただ、画室にこもり、言えなかった感情を手紙にして書き続けた。
それを古いトランクに一通ずつしまう。
五十六通の手紙。五十六回の許し。
それでも彼女は、信じていた。
だが妊娠6週目。交通事故に遭い、出血が止まらない中で彼に電話したとき。
聞こえたのは、別の女の甘い笑い声だった。
「今、彼はちょっと無理なんです」
子どもは失われた。子宮には傷が残った。
病室のベッドでようやく返ってきたのは、「騒ぐな」という一言だった。
その夜、彼女はすべての思い出の品を燃やした。
煙の中で折り鶴を握りしめながら、もう終わってもいいと思った。
——そのとき。
火の外から、彼女の名前を呼んで駆け込んでくる者がいた。
それは、彼女の夫ではなかった。