目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報
私の不器用な甜点学徒は財閥御曹司だった――しかも、私の“ミューズの筆友”と同一人物だった
私の不器用な甜点学徒は財閥御曹司だった――しかも、私の“ミューズの筆友”と同一人物だった
Goya
恋愛現代恋愛
2026年07月06日
公開日
9.4万字
完結済
桃井美紀のフランス菓子店は、祖母が遺した最後の“体面”だった。 彼女は、その店を守ることだけがすべての問題だと思っていた。 だが、現実はあまりにも残酷だった。 ある日、元恋人が別の女性を連れて店に入り、 彼女の目の前で、何事もなかったようにキスをした。 羞辱は突然やって来る。 元恋人は「お前にはふさわしくない」と彼女を切り捨て、 さらに家主である元恋人の母親は、家賃の値上げを盾に店の立ち退きを迫る。 逃げ場はどこにもなかった。 そんな中、店にやって来たのは一人の見習いだった。 不器用で、泡立てたクリームすら満足に作れない男。 それなのに彼は、誰よりも自然に彼女の生活に入り込んでいく。 寒い日にはカウンターにそっと防寒シートが敷かれ、 彼女のブラックコーヒーは必ず来店前に用意されている。 レシピの草稿は、いつも必要なページが開かれていた。 彼女は思っていた。ただの気の利く学徒だと。 だが彼には、二つの顔があった。 一つは、彼女が避けてきた財閥の後継者。 もう一つは、長年匿名で心を通わせてきた筆名“M”。 その二つが同一人物だとは、彼女は知らなかった。 そして彼もまた、何も語らなかった。 転機は答礼会で訪れる。 元恋人とその母親は「ただのアルバイト」と彼女を嘲笑した。 しかし次の瞬間、会場にいた経済界の重鎮たちが一斉にその“見習い”へ頭を下げる。 空気が反転する。 噂、圧力、契約の罠。すべてが彼女を追い詰めていく中で、 彼女は初めて弱音を吐いた。 「もう、一人では無理です」 その言葉を、彼は待っていた。 仮面をかぶった“鈍い見習い”が仮面を外すとき、 そこにいたのは最初から彼女だけを見ていた男だった。 そしてその心には、すでに彼女しか残っていなかった。

第1話 店に現れた客

loading