髙山あきら
恋愛現代恋愛
2026年07月06日
公開日
2,705字
連載中
二十二歳の春、真由は職場の上司である藤崎と出会った。
仕事で失敗ばかりしていた新人時代、誰よりも優しく手を差し伸べてくれたのが彼だった。気付けば二人は恋人になり、真由は五年間、何の疑いもなく藤崎を愛し続けていた。
土日は会えない。
年末年始も大型連休も一緒には過ごせない。
家に招かれたこともなければ、結婚の話をしたこともない。
それでも真由は不思議に思わなかった。愛していたからだ。信じていたからだ。
だがある日、職場の同僚から告げられる。
――藤崎係長が結婚していること、本当に知らなかったの?
その一言によって、真由の世界は静かに崩れ始める。
五年間の記憶を振り返るたびに見えてくる違和感。信じていた言葉。見ようとしなかった現実。そして、自分以外の誰もが知っていたかもしれないという恐怖。
愛していた相手は何者だったのか。
なぜ自分だけが知らなかったのか。
真実を確かめようとするたび、真由は自分自身の記憶と感情に追い詰められていく。
これは、不倫の物語ではない。
人は本当に相手を見ているのか。
信じるという行為は、時に何を見えなくしてしまうのか。
愛した相手の嘘によって少しずつ世界の輪郭を失っていく一人の女性を描く、静かな心理小説。