私が救い、業界の新星へ育てた婚約者は、祝賀会でかつて自分をいじめた令嬢を抱き「本当の恩人は彼女だ」と言った
ごけつひめ ミサ
恋愛現代恋愛
2026年07月13日
公開日
5.3万字
完結済
東京に初雪が降るという予報が届いた夕暮れ。
朝倉雪乃は、量子センサープロジェクトの発表を終えたばかりだった。
婚約者である神崎蓮から届いたコートの写真と、「初雪を一緒に見よう」という誘いに、彼女の胸は幸福で満たされていた。
彼女は忘れたことがなかった。
学生時代、誰にも助けてもらえず、財閥令嬢によるいじめに苦しんでいた彼の手を取った日のことを。
傷ついた彼を救い、支え続け、彼が業界の新星と呼ばれるまで導いた十年間。
雪乃にとって、神崎蓮はただの婚約者ではなかった。
自分の人生をかけて守ってきた、大切な人だった。
――しかし。
匿名投稿に添付された一本の音声が、すべてを打ち砕いた。
録音の中で、甘い声の女が彼に言う。
「その研究者の婚約者には会いに行かないで」
そして彼は。
雪乃が誰よりもよく知る、優しく彼女を受け入れてくれる声で答えた。
「分かった」
彼女は自分の目で確かめた。
銀座のレストランで、彼が別の女の首元にマフラーを巻く姿を。
丸の内のホテル前で、二人が抱き合ったまま中へ消えていく姿を。
そして、最も残酷な事実を知る。
その女は――二階堂綾乃。
学生時代、彼を人前で傷つけ、苦しめた張本人だった。
かつて彼が憎み、決して許さないと言っていた相手。
それなのに彼は、その女に自分と同じSNSアイコンまで使わせていた。
十年間積み重ねた信頼。
彼を救った日々も、支え続けた時間も、共に歩んだ未来への約束も。
すべてを踏みにじるように、彼は言った。
「本当の恩人は彼女だ」と。
裏切りの証拠が、初雪のように冷たく降り積もっていく。
雪乃は、この壊れ果てた愛とどう向き合えばいいのか――。
そして後に。
彼が彼女の前に跪き、「行かないでくれ」と縋った時。
雪乃は静かに問いかけた。
「……昔、あの令嬢に跪けと言われた時も、あなたはそんなに慣れていたの?」