十年前、神社で結婚を約束した幼なじみは、姉を選んで私の義兄になりました
月川
恋愛現代恋愛
2026年07月14日
公開日
2.3万字
連載中
夏帆は、林家から遠ざけられ、田舎へ送られて育った娘だった。
姉の夏織は、両親に愛され、何不自由なく育った“お姫様”。
けれど、二人の顔立ちはよく似ていた。
病気療養のため田舎へ預けられた夏帆は、そこで偶然、一人の美しい少年と出会った。
彼は無口で、どこか冷たく見える人だった。
それでも別れの前夜。
少年は目を赤くしながら、まるで雨に濡れた子犬のように夏帆の服の裾を掴んだ。
そして震える声で言った。
「僕、行かなきゃいけない」
「でも……待っていてくれる? 必ず君を迎えに戻ってくるから」
――その約束から、八年が過ぎた。
再会した場所は、姉の婚約披露宴だった。
結婚など絶対に望まないと言われていた義兄になるはずの男が、姉の写真を見た瞬間、結婚を申し込んだ場所。
披露宴の日。
夏帆は、姉が着なくなった古いワンピースを身にまとい、藤原凌が姉の手を取り、祝福を受ける姿を見つめていた。
けれど彼は、間違いなくあの少年だった。
十年前、長野の神社で御守りを彼女の手に握らせ、
「帰ってきたら、君を探すから」
そう約束してくれた少年。
なのに姉は先に彼を奪い、夏帆の大切な思い出を、自分の花嫁衣装に変えてしまった。
何度も確かめようとして、何度もすれ違った。
そして結婚式の前夜。
夏帆はグラスを手に、彼の前へ歩み寄った。
彼は彼女の指先に触れ、低い声で尋ねる。
「……君の手、どうしてこんなに冷たいんだ?」
夏帆はその酒を一気に飲み干した。
そして何も言わず、その場を離れる。
洗面所の鏡に映る自分を見つめながら、彼女はようやく決めた。
もう、逃げない。