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みんなが夫と初恋相手をお似合いだと思っている――でも彼が毎晩求めているのは、私の愛だけだった
みんなが夫と初恋相手をお似合いだと思っている――でも彼が毎晩求めているのは、私の愛だけだった
Evil Purple Cat
恋愛現代恋愛
2026年07月14日
公開日
2.1万字
連載中
結婚して一年。 水無月澪と氷川律の関係を知っているのは、たった二枚の紙だけだった。 婚姻届。 そして、誰にも見せることのない契約書。 彼女は彼のネクタイを結び、彼は彼女のために夕食を買って帰る。 同じ食卓を囲みながら、二人の間にはまるで海のような沈黙が広がっていた。 ――それでも澪は、この結婚を信じていた。 そんなある日。 九条紗耶香が会社へやって来た。 瞬く間に広まった噂。 「この方こそ、氷川副社長の本当の婚約者だ」 澪は見てしまった。 律が九条に傘を差し出す姿を。 彼女の代わりに酒を受ける姿を。 そして、彼のスマートフォンの待ち受けが、九条の後ろ姿に変わっていることを。 まるで、大学時代のあの日々のようだった。 周囲の人間は皆、口を揃えて言う。 九条さんは氷川副社長の初恋の相手。 卒業後、九条さんが海外へ渡ったことで二人は別れるしかなかった。 でも今、彼が九条家の関連会社へ移ったのは―― 「お嬢様が戻ってくるのを待っていたに決まってる」 「きっと数日もしないうちに復縁するよ」 そんな声が、社内中に広がっていた。 二人の大学時代を知る同級生として、澪は恋愛話を聞かれても何も答えられなかった。 なぜなら、彼女だけが知っているから。 氷川律と一年間、誰にも知られない夫婦だったことを。 その日、澪は静かに左手の薬指から指輪を外した。 そして、それをそっとポケットにしまった。 彼女が去る日に持っていったものは、たった一枚の指輪と―― 今まで一度も聞けなかった、たった一つの問いだった。 「……あなたは、本当に一度でも私を好きだったことがありますか?」

第1話 突然の雨

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