元夫が妊娠した愛人を家に連れ込んだ日、私は十年間私を想い続けた忠犬系の彼と結婚しました
Ruiii
恋愛現代恋愛
2026年07月15日
公開日
2.2万字
連載中
有栖月と九条徹真は、長い年月をかけて愛し合ってきた。
――少なくとも、月はそう信じていた。
九条徹真は、若い女性を連れて帰るたび、ついでのように月のためにも“相手”を用意した。
「俺には新鮮さが必要だ。君には寂しさを埋める相手が必要だろ」
「お互いに都合がいい。誰も誰かを責める必要はない」
そう言って、すべてを正当化していた。
けれど最後の一度だけは、彼の一線を越えた。
徹真はまた一人の若い大学生を連れてきた。
そして穏やかな声で、まるで相談でもするように言った。
「避妊していたのに、妊娠した」
「沙耶は子どもを産むなら、俺との関係を正式なものにしてほしいと言っている」
「だから、しばらく離婚しよう」
「復縁するまでの間、君も彼と仲良くすればいい。俺は止めない」
しかし裏では、周囲の人間が彼に問いかけていた。
「徹真、それはお前が何日も家の前で跪いて、やっと手に入れた妻だろ?」
「本当に他の男へ渡すつもりなのか?」
「しかも、あの大学生に“奥さんには手を出すな”と一言も言わなかったのか?」
九条徹真は、ただ静かに煙草を燻らせながら答えた。
「俺は別に、寝取られることが好きなわけじゃない」
「それに、お前たちも知っているだろ」
「月には精神的な潔癖がある。あいつがあの男たちに触れることはない」
「さすが徹真だな――」
「男を家まで連れてきたのは事実。でも、月が自分から拒むなら、それは彼女自身の問題だ。お前の責任じゃない」
「本当に大したものだよ」
誰もが思っていた。
今回もきっと、これまでと同じ。
月は若くて見た目のいい男に慰謝料を渡し、静かに追い払うのだと。
けれど――
月はゆっくり顔を上げた。
そして、微笑んだ。
「いいよ」
「あなたの言う通りにする」
その瞬間、誰も知らなかった。
彼女が初めて、この結婚のルールを自分の手で変えようとしていることを。