誕生日の日、私はスイスで安楽死を決めた――夫が浮気相手と花火を見る夜に
皆死ね
恋愛結婚生活
2026年07月17日
公開日
6.2万字
完結済
結婚して三年間。
清水修吾は、私の通院に一度も付き添うことを欠かさなかった。
感覚を失った私の両脚を、自ら優しくマッサージしてくれた。
深夜には、冷えた身体のために温かいミルクを用意してくれた。
誰もが言った。
「あなたは本当に素敵な旦那様を持ったね」と。
私も、そう信じていた。
――あの日までは。
私の誕生日。
修吾が隣にいた相手は、私ではなかった。
ショッピングモールの警報が鳴り響いた瞬間。
倒れた私を見た彼は、一瞬も迷わず別の女のもとへ駆け寄った。
そして、その女を抱きしめた。
クリスマスイブ。
彼は私を一人スイスのホテルに残し、東京へ戻った。
彼女のために、みかんを剥くために。
私は何も言わなかった。
責めることもしなかった。
ただ、彼が知らない場所で、証拠を一枚ずつ印刷した。
そして、引き出しの奥深くへしまった。
クリスマスの日。
私はスイスの安楽死施設へ向かった。
彼は知らなかった。
最後に私が聞いた、
「本当に行かなきゃいけないの?」
その言葉が、私たちの間に残された最後のチャンスだったことを。
彼は知らなかった。
私が撮った一枚のモノクロ写真が、この世界に残す最後の姿になることを。
彼は知らなかった。
ノートに書いた「誕生日の願い」など、もう願いではなく遺された言葉だったことを。
そして。
彼が私の死亡証明書を受け取った時。
ようやく理解した。
私の離去は、決して赌气でも、脅しでもなかった。
それは――。
他愛した人から、静かに見捨てられた末に選んだ、最後の決断だったのだ。