妊娠六か月の私に、妹のために献血しろと夫が迫った日――私は誰にも望まれていなかった子どもを落とした
やのぎ
恋愛現代恋愛
2026年07月20日
公開日
2.7万字
完結済
清香は、欲しいものなら何でも手に入れてきた。
姉の踊りの出演枠も、姉が舞台に立つ機会も、そして姉の夫さえも――彼女はすべてを欲しがった。
真由は譲ることに慣れていた。黙って耐えることに慣れていた。両親から「あなたはお姉ちゃんなんだから」と叱られるたびに、自分の存在を少しずつ小さくして生きてきた。
妊娠六か月になるまでは。
一輝は真由の髪をつかみ、無理やりスマートフォンの前まで引きずっていった。そして電話越しの清香に「私があなたの食事を作ります」と約束させた。
その夜、真由は中絶手術を予約した。
医師から「医学的な奇跡」と呼ばれたその子を手放した真由は、病室で母親が自分を罵倒する音声を再生し、両親に今後一切干渉しないという誓約書へ署名させた。
さらに離婚届を一輝の前へ突きつけ、彼が震える手で自分の名前を書くところを見届けた。
その後、真由は流派の名取試験に挑み、公開稽古の場で妹を圧倒した。そして賄賂の事実を暴かれた清香が、流派から永久除名される瞬間をその目で見届けた。
一年後。
真由は白無垢をまとい、かつて舞台の上で自分のために立ち上がってくれた男性と結婚した。
一方、真由を道具としか見ていなかったかつての夫は、遠く離れた桜の木の下にうずくまり、彼女の後ろ姿が鳥居の向こうの光へ消えていくのを、ただ見つめることしかできなかった。