婚約破棄された私は“愚かな彼”と結婚した――けれど彼の正体は関東最強の財閥当主だった
姜姜姜姜
恋愛現代恋愛
2026年07月20日
公開日
6.6万字
完結済
藤原叶の人生で、最も惨めだった瞬間。
それは父親が病に倒れ、会社が五億円もの負債を抱えた日でもない。
婚約者・一条遼に、結婚式の場で公然と婚約を破棄された瞬間でもない。
本当に絶望したのは――
借金を返すために、箸すらまともに持てない“愚かな男”へ嫁がなければならなくなった時だった。
周囲の人間は皆、藤原叶がおかしくなったと思った。
一条遼の復縁の申し出を断り、
何もできない“夫”と人生を共にするなんて。
でも、叶だけは知っていた。
一条遼の偽りだらけの謝罪も、上から差し出された復縁も、ただの施しに過ぎないことを。
それよりも――
いつも満面の笑顔で、
「叶ちゃんが一番かわいい!」
「叶ちゃんは世界で一番すごい!」
「僕は世界で一番、叶ちゃんのことが大好き!」
そう言ってくれる“少しおかしな彼”こそが、唯一、本気で彼女を想ってくれる人だった。
台風の夜。
二人は強い風雨から身を守るように、互いを抱きしめ合った。
その瞬間、叶は思った。
世界にはもう、貧しい自分たち二人しか残っていないのかもしれないと。
そんな彼が、ある日。
最高級の和牛やオーストラリア産の高級肉を大量に抱えて、嬉しそうに言った。
「これ、道で拾ったんだ!」
そしてさらに、数十万円を取り出して笑う。
「これも道で拾った! ねえ叶ちゃん、僕のこと褒めて?」
「……」
叶は言葉を失った。
一方、一条遼は一族の力をすべて使い、彼女を追い詰めた。
取引先からの供給停止。
顧客との契約破棄。
銀行からの返済要求。
三方向からの圧力で、彼女を完全に潰そうとした。
さらに黒木莉奈は、慈善パーティーの場でワインを手に取り、叶のドレスへわざと汚れを浴びせた。
彼女が逃げ出す姿を楽しみにしていた。
――その時。
あの“愚かな彼”が前に出た。
いや。
立ち上がったのは――
西園寺グループの当主だった。
彼は、最初から何も知らない愚か者などではなかった。
ただ一つ。
彼女が本当に自分を愛してくれる日を、ずっと待っていただけだった。