破産した令嬢が夫への干渉をやめた途端、冷淡な御曹司の夫は赤い目で「もう一度俺を気にかけてくれ」と縋ってきた
つづら
恋愛現代恋愛
2026年07月21日
公開日
4.9万字
完結済
結婚三年。
朝倉綾乃は、ずっとこの結婚生活の主導権を握っていた。
彼女は夫に、十時までに帰宅すること。
外出する時は必ずキスをすること。
帰宅したら行動を報告すること。
そして、酒やタバコの匂いをつけて帰ってくることも許さなかった。
さらには、足湯のお湯の温度まで、彼自身に手で確かめさせていた。
そんな彼女を、周囲は「夫を尻に敷く妻」だと噂していた。
けれど、高梨朔夜は一度も本気で彼女に逆らわなかった。
――高梨家が一夜にして破産するまでは。
綾乃は偶然、夫と友人たちのグループチャットを目にする。
そこに書かれていた言葉は――。
「毎日確認されて、まるで犬みたいに扱われている」
「もし彼女がこのままなら、離婚も考える」
その瞬間。
綾乃は思い込んだ。
彼の優しさも、従順さも、愛ではなかった。
ただ、自分に合わせて我慢していただけなのだと。
彼女は自分のわがままをすべて封印した。
もう夫の帰宅時間を聞かない。
行動を確認しない。
甘えない。
夫に何かを求めない。
「迷惑をかけない妻」になるために、必死で変わろうとした。
しかし――。
彼女が本当に、もう自分を気にかけなくなった時。
かつて冷静で感情を表に出さなかった男は、初めて取り乱した。
深夜、酔って帰宅した高梨朔夜は、彼女を抱きしめたまま、赤く潤んだ目で問いかける。
「……どうして、もう俺を見てくれないんだ?」
「前は、あんなに俺のことを気にしていただろう?」
「……もう、俺のことは好きじゃないのか?」
その時、綾乃は初めて知る。
自分が愛だと思っていたものを、彼は決して重荷だとは思っていなかったことを。
彼が本当に欲しかったのは――。
誰よりも自分を気にかけてくれる、彼女の愛だったのだ。