山奥から来た従順な許嫁は愛人の立場まで受け入れた――後に知った。彼は腹黒く、私を奪い合うほど独占欲が強い本物の大物だった
砂糖壺
恋愛現代恋愛
2026年07月21日
公開日
8.2万字
完結済
神谷綾音は、東京・丸の内で名を馳せる敏腕広報。
彼女は、この先の人生で最も難しい相手は、気難しいクライアントだけだと思っていた。
しかし、ある日。
母から突然の電話がかかってくる。
「あなたが三歳の頃、約束した許嫁がいるでしょう」
その相手――森崎蒼介は、二つの大きな現金袋を抱え、すでに彼女の家の前に立っていた。
誰もが思った。
森崎蒼介は、簡単に扱える男だと。
色褪せた服を着て、古い時代のような礼儀を守り、綾音の元恋人の前では頭を下げる。
「彼女が幸せなら、それでいいです」
そう言って、自分の立場をわきまえる田舎から来た青年。
佐久間怜が高圧的にマンションへ乗り込み、綾音が大切にしている猫・春丸を連れて行こうとした時も、誰もが思っていた。
この男なら、きっと黙って譲るだろうと。
――しかし。
蒼介が顔を上げた瞬間、空気が変わった。
彼は冷静に春丸の数年間の病歴を並べ、相手がどれほど無責任だったのかを一つずつ暴いていく。
さらに佐久間怜が手を出した瞬間。
彼は、たった一瞬で相手を制圧した。
綾音の前では、いつも穏やかで声を荒げることすらなかった男。
その本性は――。
彼女を傷つけるものすべてを許さない、鋭い牙を隠した狼だった。
彼はただ春丸を守っただけではない。
冷静な言葉と圧倒的な存在感で、偽りに満ちた元恋人を完全に打ち砕いた。
森崎蒼介は、決して誰かに踏みにじられるだけの羊ではなかった。
羊の皮を被った狼。
すべてを計算しながら、彼女のそばに居続けた男。
彼が望んでいたのは、最初からただ一つ。
いつか彼女自身の意思で――
自分だけを選び、その隣に迎え入れてくれることだった。