結婚写真もない、指輪もない、クローゼットには誰かの古いスーツ――記憶喪失の夫は真顔で言った。「俺は、妻に隠された愛人だ」
駄作者@反省中
恋愛結婚生活
2026年07月22日
公開日
2.1万字
連載中
高槻三紀の夫は、交通事故から目覚めた後、まるで別人になっていた。
彼は覚えていなかった。
結婚式のことも。
結婚指輪のことも。
なぜこの家に二人の結婚写真が飾られているのかも。
ただ、新しい生活の中で一つ一つの違和感を拾い上げていく。
この部屋には、自分の写真がない。
自分のための指輪もない。
そしてクローゼットには、自分の知らない古いスーツが残されていた。
冷静に状況を整理した彼は、メモ帳にこう書き残す。
「この家に、俺の居場所はない」
「……俺はたぶん、妻に隠された愛人だ」
それからの日々。
三紀は、夫の奇妙な行動に気づき始める。
インターホンの音に怯え、
クローゼットへ身を隠し、
外出する時はまるで誰かから逃げるように完全装備。
そしてある日、彼は真剣な顔で彼女に告げる。
「君は、この結婚を見直した方がいい」
「もっと君にふさわしい相手を探すべきだ」
まるで、自分は夫ではなく、妻が隠している秘密の存在だと思い込んでいるように。
しかし――。
その“ふさわしい相手”が誰なのか。
三紀は家中を探しても見つけることができなかった。
そんな時、彼女は夫のスマートフォンを見る。
そこに残されていたのは――。
十八歳の頃から始まった、彼の長い片想いの記録だった。
記憶を失っても、消えることのなかった想い。
彼は最初から、誰かの代わりでも、隠された存在でもなかった。
ずっと彼女だけを愛していた、彼女の夫だった。