親友に豪門の夫を奪われた財閥令嬢――拾った貧乏夫の正体は、誰も手の届かない存在だった
巻口
恋愛現代恋愛
2026年07月31日
公開日
1.9万字
連載中
栞は、自分の人生が大きく狂うことなどないと思っていた。
篠原家の長女。
最高の教育を受け、何不自由なく育ち、半年以上文通を続けている大切な人もいた。
――あの日までは。
親友の静枝が、彼女の筆跡を真似して手紙を奪い取るまでは。
彼女の大切な想い人を横取りし、さらに周囲へ嘘を広めた。
「告白して振られた腹いせに、相手を傷つけている」
そんな噂を流された。
たった一夜で。
東京の名家たちは、栞を笑いものにした。
父のもとへ届いていた数々の縁談は、すべて断られることになった。
弟の縁談までも、その影響で破談になった。
栞は仏間で一晩中、膝をついて祈った。
翌朝。
腫れた膝には、青紫色の痣が残っていた。
そして彼女はパソコンを開き、星陵グループの新人選抜で一位になった人物の情報を見つけた。
佐藤蓮司。
二十三歳。
孤児。
杉並区にある、家賃四万五千円の古びたアパートで暮らしている青年。
栞は一番質素なワンピースに着替えた。
そして、「佐藤」と書かれた表札のある木の扉を叩いた。
彼女は決めていた。
何も持たない貧しい男に、自分の人生を託す。
必要なら、彼を篠原家へ婿入りさせてもいい。
それが、家族と自分の名誉を守る唯一の方法だと思っていた。
けれど彼女は知らなかった。
その扉の向こうにいる男は――
もう二年前から、ずっと彼女を待っていた。