身代わり花嫁の貯金計画――旅費を貯めて逃げるつもりだった私を、氷の夫は逃がしてくれなかった
Verity
恋愛現代恋愛
2026年08月04日
公開日
1.9万字
連載中
長澤里枝は、長澤家がようやく見つけ出した“本当の娘”だった。
けれど彼女に与えられた運命は――
両親が溺愛する養女の代わりに、東京で最も名高い一族へ嫁ぐことだった。
里枝は思っていた。
自分はただ、妹の身代わりなのだと。
さらに、こんな噂まで耳にした。
「嫁ぎ先の家は、もうすぐ破産するらしい」
だから両親は、大切に育てた養女をそんな場所へ嫁がせたくなかったのだ。
……危なかった。
自分が愛されているのだと、勘違いするところだった。
結婚初夜。
夫は彼女を客室へ案内し、ただ一言だけ残した。
「これからは、それぞれ自由に暮らそう」
そう言って、振り返ることなく二階へ上がっていった。
翌日。
里枝は衣装部屋で、一つの高級ブランドバッグを見つけた。
これを売れば、もしもの時のためのお金になる。
そう思い、喜んで中古買取店へ持ち込んだ。
しかし――
店員の鑑定結果は残酷だった。
「こちらは……偽物です」
さらに悪いことに。
その場には、偶然にも夫の従妹がいた。
彼女はわざと声を張り上げ、里枝の名前を呼んだ。
店内にいた全員が知ることになる。
――伊東家の若奥様が、偽物のブランドバッグを売ろうとしていたことを。
その夜。
姑から電話がかかってきた。
「一族の恥をさらして、一体何を考えているの!」
激しい言葉で責められた。
そして夫が帰宅した。
彼は何も言わず、ただ静かに里枝を見つめた。
そして、彼女の身体を震わせる一言を口にする。
「……あのバッグ」
「母さんが君に渡したものなのか?」
里枝は思った。
きっと彼も自分を軽蔑する。
偽物を持つような妻はいらないと、追い出される。
そう思っていた。
けれど――
彼は違った。
ただ静かに言った。
「これから母が君に何か渡しても、受け取らなくていい」
「欲しいものがあるなら、俺に言って」
その瞬間。
里枝はようやく気づいた。
彼は、最初からすべて分かっていた。
それでも――
一度も彼女を責めることはなかった。