目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報
身代わり花嫁になった私は極道の夫を殺すつもりだった。なのに冷酷な彼が待っていたのは、私のたった一言の声でし
身代わり花嫁になった私は極道の夫を殺すつもりだった。なのに冷酷な彼が待っていたのは、私のたった一言の声でし
タイヤキ犯
恋愛現代恋愛
2026年08月07日
公開日
1.9万字
連載中
浅倉柚見が十八年間の人生で覚えたことは、ただ一つ。 ――黙って耐えることだった。 母親は、父に隠れて愛されていた愛人だった。 そして「不貞を働いた」と濡れ衣を着せられ、父の手によって命を奪われた。 本家へ引き取られた柚見を待っていたのは、居場所ではなかった。 継母と姉のストレスをぶつけられるだけの日々。 冬の寒さの中、家族全員分の洗濯をして手には凍傷ができた。 食事は台所の隅で、冷めた残飯を口にするだけ。 姉・浅倉椿の機嫌が悪ければ、何の理由もなく頬を叩かれる。 それが、柚見の日常だった。 ――姉が逃げた、あの朝までは。 継母は、母の唯一の形見を柚見の前に置いた。 「あなたが代わりに嫁がないなら、これを燃やすわ」 彼女は姉のために用意された白無垢を着せられた。 白い花嫁衣装に身を包み、顔を隠す布をかけられ。 そのまま婚礼車へ押し込まれた。 柚見は思っていた。 自分は世界で一番不幸な花嫁なのだと。 逃げた姉の身代わりとして、極道の名家へ嫁ぐ。 声が出せないふりを強いられる。 毒薬まで渡される。 毎日、「殺す」のか「殺さない」のか、その狭間で苦しみ続ける。 しかも―― 噂では、二人の妻を殺したと言われるほど残酷で血も涙もない男。 極道若頭・宮田裕樹。 その男が、なぜか自分には優しすぎる。 「……これは絶対、油断させてから殺すつもりだ」 柚見はそう思った。 新婚初夜。 白い布がゆっくりと上げられる。 そこにいたのは、恐れられる極道若頭・宮田裕樹。 彼は彼女を見下ろした。 その瞳は、噂とは違うほど優しかった。 けれど柚見は、継母の命令を忘れられなかった。 絶対に声を出してはいけない。 一言も話してはいけない。 彼女の袖の中には、一本の毒薬が隠されていた。 継母が命じたのだ。 「自分の手で、夫を殺しなさい」 と。 柚見は知らなかった。 宮田裕樹は、最初から知っていた。 彼女が―― 浅倉椿ではないことを。

第1話 身代わりの花嫁は任務だった

loading