結婚式当日、恋人とロンドンへ逃げた新郎の弟を代役にして政略結婚を続行――最後に私を愛したのは、代役の新郎でした
散歩拒否
恋愛結婚生活
2026年08月11日
公開日
2.2万字
連載中
霜出祐佳里の人生は、結婚式開始まで残り四十七分の瞬間、完全に狂い始めた。
本来の新郎・神風雅人は、恋人を連れてロンドン行きの飛行機へ乗り込み、丸の内ホテルの花嫁控室に彼女一人を残した。
両家が共同で進める物流パーク事業の説明会は、来週に迫っている。
父は心臓検査を終えたばかり。
母は朝から何も口にしていない。
そして財界メディアのカメラは、すでにホテルのロビーへ向けられていた。
彼女には、泣き崩れる時間などなかった。
悲しむための二秒。
三秒目から、彼女は損失の計算を始めた。
一人でこの破綻を処理しようとしたその時――。
空港から呼び戻されたのは、神風家の次男・道博だった。
「君は、ただ公開の場で式を成立させればいい」
彼女は彼の指に指輪をはめた。
彼は彼女のために騒動を抑えた。
そして彼女が、
「政略結婚の条件に、実質的な変更はありません」
そう告げ、婚姻届の配偶者欄を神風道博へ書き換えた瞬間。
誰も知らなかった。
“代役”から始まったこの結婚が、やがて――。
キスひとつで過呼吸になるほど恋愛に不器用な男を、深夜のキッチンで彼女の「火加減、ちょうどいいね」という一言だけで耳まで赤くさせる恋へ変えていくことを。
契約書の第一条に記された期限は、三年間。
けれど、その線を先に越えたのは――彼の方だった。