他人の子を妊娠した私は、億万長者の夫を売り払った――なのに彼は笑顔で私のお金を数えていた
バイオファー
恋愛現代恋愛
2026年08月12日
公開日
2.9万字
連載中
秋元梨奈が人生で一番大胆なことをしたのは――
夫を一千万円で“売った”ことだった。
彼女は若く美しい女性を探し出し、綿密な「攻略ノート」を作った。
彼が何を好きなのか。
何を嫌うのか。
どんな時なら、お願いを聞き入れやすいのか。
すべてを分析した。
梨奈は思っていた。
自分は裏で全てを操る存在なのだと。
この計画は、完璧に自分の掌の上にあるのだと。
――あの深夜までは。
沖縄へ逃げた梨奈を、夫が見つけ出した。
そして彼は、彼女の目の前でその女性へ電話をかけた。
「一千万円」
彼は静かに言った。
「彼女が君に何を話したのか、全部教えてくれ」
電話の向こうの女性は、すべてを打ち明けた。
あのノートの存在。
あの計画。
そして、あの取引のこと。
梨奈はソファに崩れ落ちた。
もう終わりだと思った。
けれど――
夫はスマホを置き、静かに彼女を見つめた。
「君は、俺がなぜ離婚に同意したと思う?」
その瞬間。
梨奈は初めて知った。
彼はずっと前から、彼女の検索履歴を見ていたことを。
彼女が離れる準備をしていたことも、すべて知っていた。
それでも彼は、気づかないふりをしていた。
彼女が出て行きたいのだと思ったから。
彼女の望みだと思ったから。
彼は、彼女の逃亡計画に付き合った。
彼女を自由にしようとした。
――まさか。
彼女が本当に欲しかったものが、別れではなく「引き止めてくれる愛」だったなんて。