身代わり彼女の恋愛レッスン契約――初恋を取り戻す手伝いだけのはずが、なぜか彼本人が居座っています
Ash
恋愛現代恋愛
2026年08月14日
公開日
2.5万字
連載中
明美が初めて宇野英司に会った時、彼が差し出したのは一通の契約書だった。
五百万円。
期間は二か月。
任務は、フランスへ行ってしまった初恋の人を取り戻す方法を、彼に教えること。
条件は簡単だった。
明美が、その初恋の女性に八割ほど似た顔をしていたからだ。
彼女は宇野のマンションへ引っ越した。
手の繋ぎ方。
抱きしめ方。
相手の気持ちが本物かどうかを見分ける方法。
明美は一つずつ、彼に教えていった。
鍵のかかった部屋の中で、壁に飾られたその女性の写真を見つめながら。
同じ顔で、彼女のドレッサーに積もった埃を拭きながら。
深夜、酔った彼が明美を抱きしめた時。
彼はかすれた声で呟いた。
「俺は……何かを間違えたのかもしれない」
けれど明美には、その背中に腕を回す勇気さえなかった。
やがて、その女性が帰ってくる。
そしてキッチンで、明美にこう告げた。
「偽物は、どこまでいっても偽物よ」
明美は報酬をすべて返した。
スーツケースを引き、あのマンションを出ていった。
これで物語は終わりなのだと、彼女は思っていた。
身代わりは、役目を終えたら退場するものだから。
けれど明美は、まだ知らなかった。
真実を知った後、彼女が京都まで彼を追いかけることになるなんて。
雨に濡れながら、
あの古びたアパートの扉を叩くことになるなんて。