目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報
死に戻った御曹司の声なき花嫁――前世で君が俺を救ってくれたから、今世は俺が君を名家から守り抜く
死に戻った御曹司の声なき花嫁――前世で君が俺を救ってくれたから、今世は俺が君を名家から守り抜く
タイヤキ犯
恋愛現代恋愛
2026年08月17日
公開日
2.6万字
連載中
八歳の年。笠原愛佳は、実の父に田舎へ預けられた。 それから十二年。電話は一度もなかった。 会いに来ることも、一度もなかった。 笠原家の次女・愛佳は、ただ預けられた荷物のような存在だった。 二十二歳になった時。 父は突然、彼女を東京へ呼び戻した。 そして長沢家の婚礼車へ押し込んだ。 相手は、会ったこともない男。 けれど愛佳には、拒む権利さえなかった。 新婚の夜。 夫の従姉は、招待客たちの前で彼女を嘲笑った。 「長沢家は、口のきけない嫁をもらったのね」 姑は冷ややかに彼女を一瞥しただけで、何も言わなかった。 愛佳は婚房に座り、袖の中から一粒の棗を取り出すと、黙って口に入れた。 彼女は思った。 きっと自分の人生は、このままなのだと。 期待されず。 大切にされず。 声を聞いてもらえることもないまま。 けれど、あの軽薄そうに見えた男は違った。 記者会見の場で、彼は全日本のカメラの前に立ち、はっきりと言った。 「私の妻は、長沢財閥ただ一人の若奥様です」 「彼女を貶める者は、長沢家そのものに喧嘩を売るのと同じだ」 愛佳は顔を上げた。 そして初めて、彼をまっすぐに見た。 だが、笠原愛佳には三つの秘密があった。 彼女は、生まれつき声が出ないわけではない。 靴底には、一枚の刃を隠している。 そして彼女は、父の金庫にあった株式譲渡契約書を盗み見ていた。 東京中の誰もが思っていた。 彼女は、いくらでも踏みつけにできる田舎育ちの声なき娘なのだと。 従姉の真由美は、人前で彼女に茶を浴びせた。 父は彼女を、取引の駒として売り払った。 夫の一族は、彼女が恥をかく瞬間を待っていた。 けれど。 最初に愛佳が“厄介な男”だと思っていたその人だけは違った。 株主総会で銃声が響いた瞬間。 彼は迷わず彼女の前へ飛び込んだ。 銃弾は、彼の肩を貫いた。 それでも彼が最初に口にした言葉は―― 「君は、怪我していないか?」 だった。

第1話 おしゃべりな腹黒夫

loading