一夜の過ちのはずが、冷徹御曹司の極秘妻になりました
小説家に恋は難しい
恋愛夜の世界
2026年08月17日
公開日
10.9万字
連載中
実の親に名家を追い出されたその日――私は、あの人たちが一生かかっても手の届かない男と結婚した。
五歳のとき、何者かにさらわれ、片田舎で育った私――園池小夜。
十五年ぶりにようやく実の家族のもとへ戻れた。
今度こそ家族になれる。そう思っていたのに、待っていたのは愛情ではなく、冷たい視線と露骨な差別だった。
両親が可愛がるのは、幼い頃から大切に育ててきた妹だけ。
田舎育ちの私は「人前に出すのも恥ずかしい娘」扱い。
挙げ句の果てには、家の事業を救うため、悪名高い放蕩息子との政略結婚まで押しつけられた。
「従わないなら園池家を出ていけ。財産も一円たりとも渡さない」
そう脅されて、私は笑った。
――そんなもの、最初からいらない。
園池家の令嬢という肩書きも。
あの家の財産も。
私を愛そうともしなかった家族も。
全部、こっちから捨ててやる。
誰もが「田舎娘が強がっていられるのも今のうち」と、私が惨めに落ちぶれる日を待っていた。
けれど、その一か月前。
やけ酒を飲んだ私は、とんでもない男と一夜を共にしていた。
冷泉椋――。
K市最大の財閥・冷泉家の唯一の後継者にして、冷泉グループを率いる若きトップ。
名家の令嬢たちでさえ、近づくことすら叶わない雲の上の男。
翌朝、彼は私を腕の中に閉じ込め、平然と言った。
「責任は取る。俺が君のものになる――結婚しよう」
……そして私は、そのまま彼と電撃結婚した。
実の母は二百万円を突きつけて「田舎へ帰れ」と私を追い払おうとし、妹たちは「男に遊ばれて捨てられるだけ」と嘲笑う。
けれど、誰も知らない。
何もできない“田舎娘”と見下している私が、最高機密研究室から求められる天才薬剤師であり、かつて死の淵にいた名家の御曹司を救った人物だということを。
そして何より――。
私自身、二年もすれば終わる契約同然の結婚だと思っていたのに。
「そのうち別れるかもしれないし」
そう口にした瞬間、冷泉椋の目から笑みが消えた。
逃げ道を塞ぐように私を見つめ、低い声で言い切る。
「そんな“もしも”はない」
そして、わざと念を押すように――。
「覚えておけ。君が冷泉夫人だ」