婚約者に愛人へ譲られたウェディングドレス――彼は知らない、私がアジア初の新生児心臓移植を成功させた天才外科医だと
Maitsuki taihen
恋愛結婚生活
2026年08月17日
公開日
2.7万字
連載中
私が執刀した心臓縫合術の成功率は、97%。
私が独自に設計した乳幼児用体外循環システムは、三つの大学附属病院で採用された。
私は東京医科大学史上最年少の女性心臓外科准教授。
二十八歳。
けれど――。
神谷直人にとって、それらは大した意味を持たなかった。
彼は私の特注ウェディングドレスを、女優である恋人に着せた。
「君は毎日手術室にいるだろ。そんなドレスを着る時間なんてない」
そう言って。
さらに婚約延期の同意書への署名まで迫った。
「君のキャリアは極端すぎる。少し冷静になるべきだ」
学会後のパーティーでは、同僚たちの前で笑いながら告げた。
「葉月は手術の腕は一流だけど、生活のことは誰かが決めてあげないとね」
彼は知らなかった。
その言葉を口にした同じ週。
私はアジア初となる新生児心臓移植手術を成功させていた。
執刀時間、七時間四十二分。
輸血はゼロ。
そして彼は知らなかった。
私が人生を共にすると決めた相手が――。
新道生命科学の社長、新道一朗だったことを。
世界の神経科学分野で最も引用数の多い研究者の一人。
そして三年間、深夜三時であっても、私の症例相談に必ず返信をくれた唯一の人。
神谷直人は思っていた。
私が彼を失えば、何もできなくなると。
けれど――。
彼はただ一度も、本当の私を見ていなかった。