離婚まであと47日、私はあなたを捨てる準備を始めます
ゴゴゴゴゴ
恋愛現代恋愛
2026年08月18日
公開日
4.6万字
連載中
結婚して三年。私はずっと、彼は「人を愛するのが下手なだけ」なのだと思っていた。
――あの女が帰ってくるまでは。
そのとき初めて気づいたのだ。
彼は愛せないんじゃない。
ただ、私を愛していなかっただけなのだと。
私は坊城千紗。
坊城グループを率いる坊城柾人の、れっきとした妻。
三年前、彼は私の婚約披露宴に突然現れ、大勢の前で私を奪い去った。
婚約者だった実の弟に向かって、彼は言った。
「お前と何かを奪い合うつもりはない。だが、彼女だけは別だ」
私は、それを愛だと信じた。
結婚後、どれだけ冷たくされても。
離婚を切り出せば十億円という、あまりにも一方的な契約に縛られていても。
ずっと憧れていた人の妻になれた。それだけで幸せなのだと思っていた。
けれど結婚三年目。
ついさっきまで私を激しく抱きしめていた彼は、何事もなかったように離婚届を差し出した。
――彼の忘れられない元恋人、滋野灯里が帰ってきたから。
寝室を追い出され、夜中に彼女のもとへ駆けつける夫を見送る。
義父には身の程知らずと蔑まれ、使用人にまで見下され、誰もが「捨てられる坊城夫人」の惨めな末路を待っていた。
でも、彼らは知らない。
「坊城家に玉の輿で嫁いだだけ」と笑われる私は、業界で名を知られた古美術修復師だ。
灯里に人前で酷評された企画も、照明を落とした瞬間、千年の玉髄が満天の星空へと姿を変える。
さっきまで私を馬鹿にしていた人たちは言葉を失い、彼女が甲方として私を切り捨てようとしても、私は実力だけで全員を黙らせる。
そして彼女を庇い続けていたはずの柾人さえ、皆の前で彼女ではなく私を指名した。
その瞬間、ようやくわかった。
男の愛は変わる。
肩書きだって、いつかは消える。
でも、自分自身の力だけは、絶対に私を裏切らない。
残り四十七日。
プロジェクトが終われば、この結婚も終わる。
もう「坊城夫人」の座なんていらない。
何年も愛して、何度も泣かされた男だって、もういらない。
――坊城柾人。
どうか、一生振り返らないで。
だって私が本当にあなたを捨てて消えたとき、
たとえあなたが後悔に狂って世界中を探し回ったって――
もう、二度と私を見つけられるとは限らないから。