記憶喪失のフリをしたら、偽婚約者がここぞとばかりに本気で奪いにきました!
ベーコンスライス
恋愛現代恋愛
2026年08月20日
公開日
1.2万字
連載中
小林紗良は、婚約者の黒川司を懲らしめるつもりで、記憶喪失のふりをしていた。
ところが、その芝居を逆手に取られ、思いもよらない形でやり返されてしまう。
黒川司は皆の前で、黒川家の養女として育った妹・黒川千代に惹かれていると堂々と告白したうえ、親友の神谷晴斗を指して言い放った。
「お前の婚約者は俺じゃない。晴斗だ」
まさかそんな手で返されるとは思ってもいなかった紗良は、完全に引くに引けない状況に追い込まれてしまう。
胸が張り裂けそうなほど傷ついていた。
それでも今さら「全部嘘でした」などと言えるはずもなく、必死に平静を装いながら、記憶を失ったふりを続けるしかなかった。
その後、廊下に出た黒川司は、悪びれる様子もなく神谷晴斗に協力を持ちかける。
「俺、千代のことが気になってるんだ。だからしばらくの間だけ、紗良の婚約者ってことにしてくれないか?」
あまりにも身勝手な言い分だった。
「その間、俺は千代と一緒にいたい。気が済んだら紗良には全部冗談だったって話して、元に戻せばいいだろ」
まるで紗良の気持ちなど、最初から考えてもいないような口ぶりだった。
神谷晴斗は黙って司の話を聞いていた。
その瞳の奥に、一瞬だけ冷たい光が走る。
だが次の瞬間には何事もなかったかのように表情を消し、あっさりと頷いた。
「……わかった。俺が合わせるよ」
司は満足そうに笑った。
けれど、彼は知らない。
――神谷晴斗が、この瞬間をずっと待ち続けていたことを。