強度近視の私は、かつて財閥社長の亡き妻でした――七年後、記憶を失って帰ってきた私を、元夫は息子とともに待ち続けていた
Zxi
恋愛現代恋愛
2026年08月19日
公開日
2.2万字
連載中
誰もが思っていた。
榊原グループ社長の亡き妻は、三年前のあの火災で命を落としたのだと。
――本人でさえも。
ある日。
榊原家に、新しい家事アシスタントがやって来た。
分厚い眼鏡をかけ、
何をするにも少し不器用で、
味噌汁を作れば鍋を焦がしてしまう。
執事は紹介した。
「渡辺綾夏さんです。経歴はごく普通で、特筆すべき点はありません」
けれど――
彼女が包んだ餃子だけは違った。
亡き妻が作っていた味と、
まったく同じだった。
彼は調べ始める。
彼女は何者なのか。
どこで育ったのか。
なぜ年末のパーティーで、
自分を庇って刃物の前へ飛び出したのか。
刃が身体を貫いた、その瞬間。
彼女は彼の名前を呼んだ。
「……修司」
彼は血だらけの彼女を抱き上げ、
病院へ駆け込んだ。
手術室の前で、
一晩中、一歩も動かず待ち続けた。
そして彼女が目を覚ました時。
最初に口にした言葉は――
「私は……あなたを社長と呼ぶべき?」
「それとも……修司?」
その一言で、
彼はすべてを悟った。
後日。
彼は緊急記者会見を開いた。
全国の報道陣を前に、
静かに婚約を発表する。
そして彼女の前で片膝をつき、
薬指へ指輪をはめながら言った。
「結婚してください」
「今度は――」
「渡辺綾夏ではなく、君自身の名前で」
かつて彼女を見下し、
「ただの家政婦が玉の輿に乗っただけ」
と笑っていた人々は、
誰一人として、
もう何も言えなかった。