婚約者が五億円の身代金を拒否した夜、彼は知らなかった――私が日本最大級の三浦財閥、その唯一の後継者だったことを
パァン!
恋愛現代恋愛
2026年08月21日
公開日
2.4万字
連載中
北海道。
婚約者の隼人は、隣に別の女を座らせ、目の前には二つのシャンパンのグラスが並んでいた。
その頃、水城澪は横浜の廃倉庫で――
手首には拘束具の跡が残り、肩には刃物を押し当てられていた。
犯人が要求した身代金は、五億円。
制限時間は、二時間。
隼人は言った。
「本当に本人なら、証明してみろ」
澪は、すべて答えた。
彼の父親の金庫に飾られている絵の署名。
九条テクノロジーが初めて融資枠を獲得した日付。
そして――
彼が十六歳の時、鎌倉の神社の裏庭に埋めたガラス瓶。
最後の一つは、彼の母親ですら知らない秘密だった。
それでも隼人が送ったメッセージは、たった一行。
「この件を利用して結婚を迫るつもりなら、君たちで彼女を少し落ち着かせてくれ」
そして、配信を切った。
午後九時十七分。
彼が贈った銀の懐中時計は、その時間で止まっていた。
三人の犯人がカメラを設置し、薬品を染み込ませた白い布を取り出した、その時――
配信を止め、三人を制圧し、彼女を倉庫から救い出したのは、
澪の護送役として雇われていた四人目の男だった。
彼女は懐中時計を九条テクノロジーへ送り返した。
手紙は一切添えなかった。
五億円は、最終的に弁護士が管理する中立口座へ入った。
それは身代金ではない。
彼が、誘拐が事実だと知りながら彼女を見捨てたことを証明する証拠だった。