私が出産で大量出血している最中、夫は当直看護師と関係を持っていた
Ken to tate
恋愛結婚生活
2026年08月21日
公開日
2.7万字
連載中
深夜一時。
伊佐里愛は、分娩室で大量出血していた。
「ご家族の方は?」
「先ほどまでいらっしゃいました」
何度電話をかけても、夫は出なかった。
廊下の向こうから戻ってきた夫は――
シャツの裾は乱れ、襟元のボタンは一つ掛け違え、ズボンのファスナーも閉まっていなかった。
その後ろには、当直看護師の佐伯綾乃が立っていた。
彼女のナース服のボタンも、一箇所だけ掛け違えていた。
病院から連絡を受けた義母が最初に言った言葉は、
「大事にしないでください」
だった。
息子は世間に知られた人物。
来月には新刊の発売も控えている。
――七年後。
愛は予定より三時間早く帰宅した。
玄関には、まだ水滴が落ちている見知らぬ女性用の長傘。
シンクには、五人分の食器。
なのに、この家にいるのは三人だけだった。
七歳の息子が駆け寄ってくる。
「ママ、今からハンバーガー食べに行こう」
愛は、すぐにはドアを開けなかった。
先に録音を開始し、スマートフォンをテーブルの中央へ置いた。
中にいる人たちは知らない。
この七年間、彼女がただ一つ続けてきたことを。
日付。
口座記録。
音声。
そして、署名。
すべてを残すことだった。