妹は私の美貌を真似て身代わりになろうとした――けれど、彼らが最初から愛していたのは私だけだった
毒ゼリー
恋愛現代恋愛
2026年08月21日
公開日
2.2万字
連載中
椎名未希が八歳の時、父親は彼女を奈良の田舎にある古い屋敷へ送った。
理由はただ一つ。
「お前が家にいると、椎名家の名に傷がつく」
その日から十三年間、彼女はその屋敷に閉じ込められた。
友達もいない。学校にも行けない。未来なんて、最初から与えられていなかった。
二十二歳になったある日、父はようやく彼女の存在を思い出した。
――婚約者の斎藤隼人が、「一度も人前に出たことがないなら、きっと醜いに違いない」と言い、婚約破棄のために代理人を送ってきたからだ。
両親は、未希が家に災いをもたらしたと責め、妹にはすべての愛情も資産も機会も与えた。
妹は名家へ嫁ぐために、姉である未希になりすまそうとしていた。
そんな彼女が、望まない年上の男へ嫁がされる直前――
一人の男と出会った。
藤川直哉には、誰にも話したことのない秘密があった。
十歳の頃、とある集まりの庭で道に迷った彼は、紫色のワンピースを着た一人の少女と出会った。
声をかけるより先に、その美しさに心を奪われ、その場で気を失ってしまった。
目を覚ました後、彼は必死に彼女を探した。
けれど、周囲の誰もが言った。
「そんな子は知らない」
それでも、直哉は諦めなかった。
十五年間、彼は彼女の姿を描き続けた。
絵の中の少女は、八歳から二十三歳へ成長していく。
そこに描かれた一筆一筆は、彼が心の中で想像し続けた彼女の姿だった。
十五年後。
軽井沢の道路で、彼は彼女と再会した。
服は汚れ、怯えた表情を浮かべ、全身泥だらけだった。
それでも、彼は一目で分かった。
――ずっと探し続けていた少女だと。
新婚初夜。
直哉は緊張のあまり、顔を真っ赤にしていた。
そしてポケットから一枚のマスクを取り出し、自分の目を覆う。
「見えなければ……倒れないと思うから」
そう言った。
未希は、思わず笑ってしまった。
それは彼女の人生で初めてだった。
未来を楽しみにしてもいいのだと思えた瞬間だった。