「三十歳まで独身なら結婚しよう」と約束した彼が、誕生日二ヶ月前に別の女性と結婚を決めた
川川
恋愛現代恋愛
2026年09月02日
公開日
2.6万字
連載中
十八歳の夏。
花火大会の夜、彼は言った。
「もし三十歳になってもお互い独身だったら、結婚しよう」
そして彼女の手に、一つの御守りを握らせた。
彼女はその約束を、十二年間ずっと大切にしてきた。
指輪ケースの底にまで、その日付を刻むほどに。
三十歳の誕生日を迎える二か月前。
彼から一通のメッセージが届いた。
「結婚したいと思っている」
彼女は思った。
ようやく、あの日の約束を思い出してくれたのだと。
綺麗に着飾り、期待を胸に会場へ向かった。
けれど、そこで見たものは――
彼が別の女性の指に指輪をはめている姿だった。
そして彼は、顔を上げて笑った。
「ほら、早くお姉さんって呼んで」
彼女は、日付が刻まれた指輪ケースを強く握りしめた。
彼が婚約者の額に優しくキスを落とす姿を見つめながら。
そして、背を向けて歩き出した瞬間。
初めて涙がこぼれた。
彼女は御守りを彼に返した。
「約束は、ここで終わりにするね」
そう告げて。
その後、彼女は御堂和彦と出会った。
彼は大雨の夜には温かいお粥を届けてくれた。
土砂災害の中では、自分の身体を盾にして彼女を守ってくれた。
そして神社の花火の下で、まっすぐに言った。
「君を、待たせることのない約束で幸せにしたい」
結婚して初めて迎えた夏。
あの日と同じ海沿いの堤防で、夜空いっぱいに花火が咲いた。
彼は彼女の手を握り、静かに言った。
「昔のあの約束は、あの人には守れなかった」
「でも――俺は守る」