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二人の婚約者を同じように大切にしていた私――愛する彼に裏切られた日、私は彼の兄と結婚することを選びました
二人の婚約者を同じように大切にしていた私――愛する彼に裏切られた日、私は彼の兄と結婚することを選びました
テイフウ
恋愛現代恋愛
2026年09月03日
公開日
2.2万字
連載中
夕夏には、二人の婚約者がいた。 母は最期の時、彼女にこう言った。 「二人に同じだけ優しくしてあげて」 「どちらか一人を贔屓してはいけないよ」 だから夕夏は毎年、二つの最中を作った。 二枚のマフラーを編んだ。 重さも、込めた想いも、少しも違わないように。 一人は、受け取った瞬間にその場でマフラーを身につけた。 「暖かいな」 「……また手がひび割れてるんじゃないか?」 もう一人は、人前で包みを開けながら言った。 「去年のやつなら沙耶にあげたよ」 「あいつ、色がスーパーで売ってるみたいだって言ってた」 一人は、夕夏が何気なく呟いた「梅の花を撮りに行きたい」という言葉を、一年間ずっと覚えていた。 もう一人は、友人たちにこう話していた。 「誰があいつを好きになるんだよ」 「所詮、商売人の娘だろ」 「神崎家の前じゃ、あいつの店の売上なんて何の価値もない」 夕夏は思っていた。 きっと彼は、口では冷たくても本当は優しい人なのだと。 けれど。 海辺で偶然聞いてしまった。 彼の本当の言葉を。 「機嫌を取ってるだけだよ」 「喜ばせておけば、大人しく菓子を作って、マフラーでも編んでくれるからな」 その瞬間。 十年間、二人分作り続けてきたものが、すべて無意味だったと知った。 今年、栗が不作になった。 作れるのは、一つだけ。 もう二人に同じだけ与えることはできない。 だから夕夏は選ばなければならなかった。 自分のすべての優しさを、たった一人へ捧げる相手を。 そして彼女が選んだのは―― 彼ではなかった。 --- 後日。 彼は十時庵の前に跪いた。 谷中商店街を行き交う人々の視線も気にせず、夕夏へ手を伸ばす。 「俺が間違っていた」 「兄貴にできることなら、俺にも全部できる」 「だから戻ってきてくれ」 夕夏は暖簾の内側に立ち、薄い布越しに彼を見つめた。 そして静かに言った。 「あなたは、私があげたものを当たり前だと思っていた」 「私が絶対に離れないと思っていた」 「でも、ごめんなさい」 「私はもう、行くね」 暖簾がゆっくりと下りる。 彼の視界から、最後に残った彼女の姿を隠した。 夕夏が選んだその人は―― 最初から一度も、彼女を待たせることなどなかった。

第1話 二人は同じ

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